偶然と言うの必然



「全員いけると思ってるのかしら?」
くすくすと楽しそうに笑うのは、西園寺さん。
本当は全員連れて行くくせに、意地悪だなー。
「はいはーい、じゃあ私も行かなくて良いですかー?」
半分以上本気で聞いてみた。
「行くに決まってるじゃない」
さも、当然かのように答えが返ってきた。
別に行きたくないって訳でもないんだけど、どうしても仕事の量が増えるであろうから嫌なんだよね。


「「「「あっ」」」」
見事にそろった4つの声に、有希は知り合い?と言った風な目でこちらを見た。
最近、珍しくもなくなった有希との買い物の途中に会ったのは選抜で顔なじみの3人だった。
顔なじみと言っても本当に言葉通りで、実はそんなに親しくない。
きっと、第一印象の所為かな?
まぁ、つまりは郭くん・若菜くん・真田君なんだけれど。
「あっ、東京選抜のFWとMFとボランチ」
そう有希にいう。
「ちょっと、さんその紹介ひどくね〜」
ちぇっと拗ねたように言うのは、ボランチ。
「それじゃあ、わかんないでしょ?」
呆れたように言うのは、MF(いや、若菜君もMFだけど)
「……」
何か言いたそうにこっちを見るのはFW。
言いたいことあるならはっきり言いなよ、真田君。
「えっと、若菜に郭に、真田?」
うーん、と頭を抱えながら有希が確かめるように名前を告げる。
前に説明したのを覚えてたんだろうな。
王子と話すネタにしてくれればいいなと思って教えておいたのがこんなところで役に立つとは!
U-14の3人組は驚いた顔をしてる。
若菜君が何か有希に言おうとした時に、有希のポケットから聞いたことのあるメロディが流れる。
きっと、王子だ。
有希は、ちょっとごめんと言って私たちから少し離れた。
「ねぇねぇ、さん、あの子誰?なんで俺たちの名前しってんの?」
有希が電話に出た途端、若菜君が早口でまくしたてた。
「小島有希、一応桜上水サッカー部のマネで、水野君の彼女」
そこまで言うと、若菜君の目が輝いた。
「名前はね、一応私が教えたんだ。少しでも水野君と選抜の話が出来るように」
私がそう言うと、どうして?っと郭君が尋ねてくる。
「実はね、選抜合宿あたりから水野君の様子がおかしくてね。
それでも、その時は小さな芽でしかなかったし此処まで育つとは思わなかったから放っておいたんだけど、やっぱり多少は気になったから彼女には話したりするんじゃないかなって思ってね」
なのに、一度も話さないんだもん。
わかってはいたけど、ちょっとは予想が外れてもよかったのに。
「話を聞いてもらえるだけでも、随分と楽になるのにね」
王子も早く気がつくと良いのにね。
「……さんも、誰かに話し聞いてもらったりするのか?」
小さな声で真田君は言った。
「まぁね、聞いてもらうというか話すまで無言の沈黙が続くというか」
前までは、悩みなんて誰にも言ったり出来なくて。
克ちゃんにも言えないし、一人で考えて悩んでた。
でも最近は、私が少しでも悩んだりしてると不破がまず気づく。
そして、何を悩んでるのか吐けと言わんばかりに無言の重力がかかる。
しかも!私がちゃんと言うまで許してくれない!!
「でもね、そう言う相手がいるのって凄く幸せなことなんだよね」
思わず笑顔がこぼれた。
「ごめん、
電話が終わってこっちに戻ってきた有希は両手を顔の前で会わせた。
「王子でしょ?良いよ、行っておいで」
私がそう言うと、有希は驚いた顔をした。
「わかるよ。だって有希嬉しそうだよ」
だから、行って。
「でも、まだ買い出しの途中だし」
「それなら俺がといっとくから、小島は早うタツボンの所行ったり?」
突然後ろから振ってきた声はよく知っている声で、振り返るとそこにいたのやっぱりシゲだった。
「シゲ!アンタなんでこんな所にいるのよ!?」
驚く有希に、呆れる私。
そして、とりあえず見てる3人組。
「まぁ、そんなことどうでもええやん。とにかく、買い出しは俺らがいっとくから」
「有希は早く王子の所行ってあげて?」
シゲと私が続けて言うと、ありがとう!と言って走り出した。
「あーあー、あないに走っていって、こけたらどないすんねん」
「仕方ないんじゃない?やっとかかってきた王子からの電話だもの」
嬉しくて仕方がないのよ。
「そやなー、もっと早くかけたればええのにタツボンも強情なやっちゃなー」
「今まで何かあったら、シゲに相談してたんだから仕方ないんじゃない?」
「……けど、今回俺は手だしたらあかんのやろ?」
「駄目っていうか、それじゃあ解決にならない」
わかってるんでしょ?シゲ
「あの……?」
先ほどから二人で会話をしていたことで存在を忘れられてた(覚えてたけれど)3人組のうちの一人である若菜君が声をかけた。
「よくわかんないけど、さっきの小島さんだっけ?
あの子が話聞けば水野の不調はなおるのか?」
そう聞いた若菜君の答えに、多分無理だと答えた。
「「なっ!!」」
案の定、若菜君と真田君に驚かれた。
「今回はね、私でもシゲでも有希でもたぶん解決してはくれないんだよ」
「ならなんで、彼女を行かしたわけ?」
呆れたように言う郭君。
「解決はしちゃくれないけど、何も出来ないわけじゃないんだ。
有希には有希の出来ることがあるから」
だから、本当はもっと早く行って欲しかったんだ。
無理矢理機会をつくることは簡単だったけど、でも王子が自分から聞いて欲しいって思わなきゃ意味がないから。
「さてと、そろそろいこか」
声をかけてきたシゲに、私は了解と言って返す。
「じゃあね」
3人にそう言って、その場を離れた。
「なぁ、よかったん?」
何となく私が意図したことに気がついたシゲがぽつりとそう聞いてくる。
「ん。いいんじゃない?」

今回はね、私でもシゲでも有希でも、風祭君でも駄目なんだ。



END

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