あわてて去った風祭君。
去っていった方向を呆然と見つめるサッカー部員達。
「くくく……あはははは」
我慢してたけど、もう駄目。
おかしくて、おかしくて笑ってしまう。
何か行動に出るとは思ってたけど、ああいう行動に出るとは思わなかった。
「何がおかしいんだ?」
笑い声に反応してか、周りからの視線を感じる。
「いや〜、何か起こすかなぁとは思ってたけど。
ああいう風だとは思わなくて、ね」
そういってる間にも、思いっきり水野君には睨まれてる。
嗚呼、やっぱり未だ駄目か。
「何がおかしい!」
やはり怒りがこちらに来たか。
まぁ、構わないよ。
「おかしすぎるよ。
あそこまで風祭君が言ってるのに、未だわかんないんだね。
それとも、わかろうとしないの?」
笑いを止めて、真剣に言ってみる。
水野君はよけいに憤慨したようで、荷物をつかんで帰ろうとする。
「タツボン、もし明日も今日の様な試合するんやったら、俺はまたサッカー止めるで」
佐藤君のとどめの一言。
うわー、きついな。
何か言いたそうな水野君だったけれど、結局何も言わずに去っていった。
「あれでよかったのか?」
私の意図を察したように、不破が問う。
「うん、多分。後は本人達と、────佐藤君次第だね」
そういって、佐藤君の方に目線をあわせる。
「ちょお待ちぃや、何で俺やねん」
「だって、多分今日水野君は佐藤君の所に行くと思うよ」
有希には相談できないだろうし。
(王子はさりげなくかっこつけだ!)
となると、後は佐藤君しか残らない。
「……はぁ〜、ちゃんって何でもお見通しなん?」
呆れたように言う。
「まさか、ただの勘」
何でもお見通しなわけないよ。


やってきた洛葉中との試合。
前半の途中で降ってきた雨。
隣では夕子ちゃんがあわてて傘を取り出してる。
そういえば、上水は雨の中の試合は初めてだなぁ。
洛葉中は、武蔵野森の時も雨だったらしいからそれなりに練習を重ねてきたはず。
あなどれない。
けど、勝てない相手じゃない。
さん、雨具は?」
そう聞いてきた夕子ちゃんに首を横に振って答える。
「必要ない」
「でも、濡れるわよ」
「皆だって、濡れてるから、大丈夫」
でも……と、まだ何か言いたそうな夕子ちゃんを止めて試合に目を戻す。

前半終了後、雨のために選手一同建物の中に入る。
皆がタオルで拭いている頃、グランドの方を見ると桐原監督と水野君のお母さんがいた。
傘差してもらっててよかった。
さすがに見てて、心配だったから。
「むっ、何故そんなに濡れている?」
近くまで来ていた不破に、思いっきり頭をタオルで拭かれた。
言い返すと倍以上になって返ってきそうだから放っておいた。
「不破、雨の中のサッカーってどう?」
「予想以上に動けないな、それに予想もつきにくい」
「そうだね、でも雨の中のサッカーを楽しんでよ」
「相変わらずは難しいことを言うのだな」
「不破の数学の説明ほどではないよ」
などというやりとりをしていると、ふと視線を感じた。
洛葉中の人達か。
目線を上げてそちらを見れば、あわてて目線を外された。
面と向かって言えないのならば見なければいいものを。
「どうした?」
私の視線の先に洛葉中の連中がいるのがわかったのか不破が聞いてくる。
「何でもない、私はもう平気だからDFと作戦会議でもしておいで」
そういうとコクンと頷いて野呂くん達の方へ行った。
私の頭にタオルを乗せたまま。

後半が始まり、ぞろぞろとグランドに出て行く中で私は最後に出た。
フェンスの所には桐原監督と水野くんのお母さんの姿。
その横を横切る時に、ふと先に行ってたはずの松下コーチに声をかけられた。
は、この試合をどう見る?」
何故私に聞くんだろうか?
しがない美術部の私に。
「上水が洛葉に負けるとは思いません」
私の答えに、ほうっとコーチが言う。
何故か、桐原監督達にも見られてると思うのは気のせいだろうか。
「何故、と聞いても良いのかな?」
「彼らは試合前に『雨が降ってなければ武蔵野森に勝っていた』と漏らしてました。
雨が降っていなければなんて所詮は言い訳にしかすぎません。
雨が降っていなければ勝てるほど、武蔵野森は甘くありませんしね。
それに……」
「それに?」
「洛葉中は機転がきかない。
現に風祭君と水野君の場所を変更したぐらいで戸惑いすぎ。
まぁ、それはあそこで偉そうに座ってる監督の所為でもあるんでしょうけどね」
そこまで言うと、松下コーチは頭をかいた。
「よく見てるな」
「普通だと思いますけど?
それよりも試合を見なくても良いんですか?」
そう言うと、松下コーチは納得してグランドへ行った。
さて、私も行きますか。

「……君は」
ふとかけられた声に、振り向く。
「君は一体何者だ?」
桐原監督に問われた。
水野君のタレ目の所は父親似だなー。
「ただのしがない美術部員ですが?」
「もしかして、さん?」
今度は水野君のお母さんに聞かれた。
こくんと頷くとやっぱり〜と言われた。
水野君から聞いたのだろうか。
「美術部?……サッカー部のマネージャーではないのか?」
「マネージャーはあの二人ですよ」
そう言って有希と桜井さんを差す。
「さっき言ってたことだが……」
「ああ。思ったことをいっただけですよ。
洛葉中に克ちゃんが劣るとも思わないし」
「克ちゃん……?」
「お宅のGKですよ」
「……渋沢か」
桐原監督は納得したようだった。
「そうそう、桐原監督」
「なんだ?」
「水野君は別に桐原監督を嫌ってる訳じゃないと思いますよ。
まぁ、なんて言うか反抗期に近いんじゃないですかね」
「……」
「何があってそんなに急いで水野君を編入させようとしたのかは知りませんけどね〜」
「!どうして……」
「どうしてわかったか、ですか?
今まで編入させるチャンスはあったはず。
それなのに今回はやけに強引に話を進めてるみたいじゃないですか。
何かあるって考えるのは当然ですよ」
それじゃあ、試合見ますんで。
そういって、有希達がいるところに戻った。



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