葉戦




前半が終わって、それまで静かに観戦してたけどさすがにこれ以上は見逃せないと思って
救急箱からこっそりテーピング用のテープを取り出した。
誰にもばれないように。
そしてそのまま、王子からドリンクを受け取っている佐藤君の方に近づく。
「佐藤君ちょっと来てくれる?」
「なんや、ちゃん呼び出しか〜?」
ふざけた佐藤君の反応を無視して、人目につかない校舎裏にやってきた。
「で、ここまで連れてきたのは何なん?」
「腕出して」
ここまで来て、止めることは出来そうにもない。
なら、少しでもマシになるようにするしかない。
「何言うてんの?」
……ごまかしに来たか。
「時間無いんだから、早く!」
「はぁ、ほんまにかなわんわぁ」
そう言って溜息をついてから、腕を出した。
テーピングを施していく。
「本当につらかったら途中で交代した方が良いよ」
「アホ、こんな試合途中でやめれるわけあらへんやろ」
「だろうね。でも、たぶん、たぶんだけど後半は井上さんあててくるよ」
「ふーん、まぁ何でもかめへん」
とか言いながらも楽しそうに頬をゆるめる。
「終わったよ」
「ああ、おおきに」
「無理しないようにね」
「約束はでけへんけどな」
そう言うと、佐藤君はグランドへ走っていった。
さて、私も戻るか。
そう思ってグランドに向かうと、ちらりと飛葉中の監督と目があったので、
ぺこりとお辞儀をしておいた。


試合の終了のホイッスルが鳴った。
ああいう試合の終わり方って本当に後味が悪いね。
とりあえず、腕が気になるので佐藤君の方へ行ってみるか。
「佐藤くー……」
佐藤君と言おうと思ったのに、いきなり本人に抱きしめられた為言葉は中途半端に止まった。
うーん、ちょっと苦しい。
しかも、視線が痛いなぁ。
とりあえず。
「腕は平気?」
「……ああ、問題あらへんよ」
「そう、でも後で医者に行ってね」
「……」
行かない気か?
「……本気出しかけるほど楽しかったんでしょ?」
小声でそう言うと、佐藤君の体がびくりと動いた。
「まぁ、気持ちは分からないでもないけどね」
あんな試合じゃあ。
「……なん、で?」
「ん?」
「……なんで、わかったん?」
「……なんとなく、何かを隠してる気はしてた。
それが何かはわかんないけど、でも、それが本気になるのを止めてる理由でしょ?」
「ほんまに、かなわへん」
ぽつりと呟くように言った。
「別に理由を聞き出そうとかそう言う訳じゃないから。
どういう選択をしようとしても、それは佐藤君の自由だから」
私に決める権利なんてない。
選ぶのは何時だって本人だよ。
私に出来るのは背中を押すのと、話を聞くくらい。
「……今度、話聞いてくれるか?」
「ん、私で良ければ」
私がそう答えると佐藤君はありがとうと言って私を解放した。


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