誰よりもよりも




「あーもう、うるさい!」
ピッと先ほどまで耳に当てていた携帯の電源をオフにする。
つまんない。
つーまーんーなーい。
双子の兄貴の景はテニスに夢中だし。
挙げ句の果てに、俺にまでテニスさせようとするし。
勘弁してよ。
確かに、小さい頃から景の相手を無理矢理させられてきたけど。
別に楽しくなかった訳じゃないけど。
でも、テニスじゃ駄目。
俺を熱くはさせてくんない。
ねぇ、アンタなら俺を熱くさせてくれる?

「ねぇ、あなたサッカーする気ないかしら?」
たまたま見かけたフットサル。
初めてだったけど、やってみたら結構いけた。
そろそろ、満足したし帰ろうかなって思ってたらいきなり声をかけられた。
黒髪の短い髪を風に遊ばせてる綺麗なお姉さん。
「俺のこと?」
そう指で自分を指しながら聞いた。
「ええ、そうよ」
にっこりと笑う。
ふーん。
「俺サッカーで授業でしかしたことないけど」
「あら、そうなの?」
意外そうな顔をする。
「まぁいいわ、気が向いたらここに連絡――」
「いいよ」
お姉さんの言葉を遮るように言った。
「いいよ、俺お姉さん気に入ったし」
にぃって笑う。
お姉さんもにこりと笑う。
「あら、光栄ね」
「俺、跡部
って呼んでよ」
「西園寺玲よ」
「玲って呼んでもいい?」
「ええ、もちろんよ
「「これからよろしく」」
二人でそう言い合った。

「へぇ〜、元はLリーグの選手なんだ?」
あの後、立ち話も何だからと少し行ったところにあるカフェに行った。
「ええ、今は飛葉中って言うところで監督をしてるの」
知ってるかしら?と続ける。
飛葉中かぁ。
「聞いたことはあるよ。
ここからはちょっと遠いよね?」
「ええ、今日はたまたまフットサル場を見に来てただけなの」
よっほど好きなんだね。
俺はたまたま通りかかっただけだけど。
「えっと、は高校生くらいかしら?」
高校生かぁ、まぁ見られないこともないけどね。
「氷帝学園中等部3年」
「中3!?」
「うん、そーだけど意外だった?」
「ええ、いえ、ごめんなさい。
気分を害してしまったかしら」
申し訳なさそうに、玲は言った。
「うちのハトコと同い年にしてはやけに大人っぽいから」
ハトコね。
まぁ、大人っぽいとはよく言われるね。
景とセットでパーティーとか行くと、絶対に言われる。
まぁ、半分は社交辞令だろうけど。
「気にしてないよ〜」
にって笑う。
だって、景の周りには中学生に見えないヤツいっぱいいるしね。
「ねぇ、なんで玲はサッカー始めたの?
そんなに、サッカーって面白い?」
俺を熱くさせてくれる?
俺のはなった一言は、玲の目を輝かせるのに十分だったらしい。

その後憧れの選手(故人らしい)についてを嬉しそうに語ってくれた。
俺は今の今までサッカーだなんて、体育でやる以外に関わったことがないから、
いかにその憧れの選手がすごいのかとか、玲がすごい選手だったのかって言うのは知らない。
とりあえず今日帰ったら調べてみるか。
「ごめんなさい、退屈だったかしら?」
はっとして話を止める玲。
俺は否定の意味をこめて首を横に振る。
「サッカーの話になるといつもこうなっちゃうの。
元彼とかからはうっとおしがられちゃうんだけど」
……何それ。
ばっかじゃないの。
「見る目、無いねそいつら」
「えっ?」
「見る目無いよ。
サッカーの話してる玲すっごい綺麗なのに」
すっごい楽しそうに、すっごい嬉しそうに話するのに。
「眩しいくらい素敵なのに」
まだ、何もない俺には眩しいよ。
サッカーがある玲も。
テニスがある景も。
時々眩しくて、目を細めてしまうくらい。
「あ、りがとう」

ぎこちなく笑う玲がたまらなく可愛いと感じた。



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