きれいな人だと思った。
少し長めの髪も、眼鏡の奥にある瞳も。
皆と異なる話し方も、全部。
きれいだと思った。

ー、わりぃんだけど頼むわ」
自らの髪の毛を指さしながら言ってきたのは、幼馴染みで同じクラスの宍戸亮。
「ほいほーい、座って」
近くの椅子に座るように促して、鞄の中から櫛を取り出す。
それから、亮の髪を止めてある少し結んだ位置のずれたゴムをほどく。
いつもながら、きれいな髪。
髪をとかしながらも、心の中でそう呟いてみる。
たまにはあそんでみようか?
髪の毛を一房つかんで、そんなことを考えていると亮は私の考えたことがわかったのか、
呆れた声でやめろと言った。
つまらない。
仕様がないのでいつも通りくぐろうと手を進めた。
「なぁ」
「んー?」
「さっき、見てたのって……」
「ああ、忍足君?見てたけど?」
どうしたの?と聞くと、亮は少し言いにくそうに、呟くように 好きなのかよ? と聞いてきた。
その声が妙に真剣だったから、つい思いっきり笑ってしまった。
いや、笑うところでしょう?
「んだよ、笑ってんじゃねー!」
そんなことを言われても、ますます笑ってしまうだけだった。

しばらくたって、ようやく笑いが止まった頃私はあることに気がついた。
亮の機嫌がよろしくない。
というか、拗ねている。
「……激ダサ」
むくれたように言うその姿さえかわいらしさを感じるのだけれど、
そんなことを言ってはますます拗ねるだけなので言葉にはしない。
「ごめんごめん、だってあまりにも真剣に聞くもんだから」
ごめんね?といえば、少し機嫌が直ってきたらしく で? と尋ねてきた。
「?ああ、好きかどうかだっけ?」
「ああ」
「そう言うんじゃないんだー。ただ……」
「ただ?」
「きれいな人だなぁって思っただけ」
「はぁ!?」
私の答えに、訳がわからないといった様子の亮。
とはいっても、未だ髪をくぐってる最中だからそれがわかるのは声色だけ。
「……よし!できたっと」
くぐり終えた髪の毛から手を離す。
亮はありがとうなといって、自らの髪の毛をさわって確かめる。
どうやら納得のいったようではにかんだように笑う。

忍足君をきれいだと思った。
けど、話したこともない。
亮も、きれいだとよく称される。
けれど、それは皆が知らないから。
亮のはにかんだ様な笑顔も、真っ赤になりながら照れる姿も、知らないから。
知らないから、きれいだなんて言えるんだ。



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