あののため



「別れよう」
立海にくると決めた日、そうあの子に告げた。
有無を言わさず、そして理由も告げず。
挙げ句転校することすら告げずに、あの子の前から姿を消した。
携帯の番号も変えた。
新しい番号を知ってるのは家族と幼馴染みとピロシと数週間前から彼氏になった男。
あたしの携帯に入ってるのもそれだけ。
あの子のことを知ってるのは兄と幼馴染み。
転校の本当の理由を知っているのは、幼馴染みだけだった。

仁王という男といわゆるカレカノとなっても、あたしの生活は何一つ変わらなかった。
あたしは別にその男が好きなわけでもなければ。
その男にとってもあたしはどうでもいい存在。
そんなあたしとその男が関わるはずがなく。
結局の所、数週間経った今でも関わりは一切無い。
あたしはあの男のフルネームすら知らないし、男はきっとあたしの名前すら知らない。
ただ、あたしに与えられたのは男の彼女という肩書きだけ。
それで十分。
幼馴染みにはすでに告げている。
電話で伝えたときに幼馴染みは只一言、
「……馬鹿が」
そう低い声で言った。
だって、これしか浮かばなかったんだもの。
あの子を傷つけるような形になることは百も承知で。
自分の首を絞める形になるのも承知で。
嫌な相手の言いようになることも重々承知している。
けれども、すべてはあの子の為。
あの子が幸せになるのなら、あたしはどんな嘘でも平気で付いてみせるよ。
景ちゃん。






top

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送