天城少年の岐点



『どうしたらいいかわからないんだ』
電話口でそう言ったのは、天城遼一。
最近、様子がおかしくて(と言うより調子が悪くて)気になったので携帯の番号を渡しておいた。
携帯に着信が来たのは数日後。
風祭君が天城君と一緒に帰った日の事だった。
風祭君なら何かアクションを起こしてくれるだろうと克ちゃんと言っていたけど、やっぱりそうだったみたいだ。

内容を聞くところに寄ると、選抜にこのまま残るか母と義妹と暮らすためにドイツに行くかを迷っているらしい。
行けば良いと思う。
というか、本人も行きたいんだろうな。
でも、選抜から逃げるみたいで、それは嫌だとも彼は言った。
事実、現在彼の調子は悪くなる一方だから、もしも彼が今抜ければそう思われるかもしれない。
というよりも、事情がわからないメンツは確実に言うだろうな。
けど、そこはちゃんと風祭君が道をつくってくれたみたいだ。
賭なしの勝負をすると言うことで。
上手く天城君の迷いさえ消えれば、いつも道理の力がみられるはずだ。
天城君のいつも道理の力がみられれば、たとい選抜を止めたとしても、逃げたなんて言ったりする人はいないはずだ。
万が一にも、選抜に残る方を選んだとしても今までの不調のイメージは払拭されるはずだ。
風祭君がそこまで考えて提案したものかどうかはこの際置いておこう。
(多分偶然だし)

『それで、見に来て欲しいんだ』

私が見に行っても良いのか戸惑ったけれど、せっかく天城君が誘ってくれたのだから見に行くことにした。
というか、何故か見に行かなくちゃいけないような気がした。
でも、私は一つ勘違いしてた。
てっきり、ひっそりと勝負すると思っていた。
けど、飛葉中という場所ですぐに翼さんを重い浮かべていればすぐに気づけたはずなのに、
気づけなかった。
当日静かに行われると思って行ったその場所は、予想に反して騒がしかった。
どうやら、翼さんから他の選抜メンバーに連絡網が回ったらしかった。
いつの間にそんなものが出来たんだろう?って思ったけど、只単に知ってる人に回していっただけらしかった。
なんか、だんだんまとまってきたよね、都選抜も。
さんも来てたの!?」
大人数にため息をついていた風祭君が私に気がついて驚いた。
そんなに意外だったんだろうか?
返事に困っている私の代わりに天城君が『俺が呼んだんだ』と答えてくれた。
天城君の返事に皆は驚いてたみたいだけれども、本来の目的を思い出して勝負の説明に翼さんがうつった。
GKにDFが3人。
ゴールすればいい。
先に風祭君がする。
周りは一部を除き、風祭君には無理じゃないか等という声が聞こえる。
一番大きいのは鳴海君。
「ああ、そういうことか」
さん?」
風祭君がボールを入れたのを見て、ぽつりと呟いた台詞に怪訝そうに私の名前を呼ぶ郭君。
やっとわかった。
何故、翼さんがこうもおおごとにしたのか。
只の勝負なら必要な人数だけ集めればいいはずだ。
それなのに、わざわざ選抜メンバーを集めたのは、風祭君の実力を知らしめるため。
……考えてるな。

次に行った天城は私の予想を遙かに超えたものを見せてくれた。
まさか、右足を使って直接ゴールにたたき込むなんて思いもしなかった。
これで大丈夫。
どちらに転んでも、天城君の選択にけちをつける人なんていない。
大丈夫だよ。
「監督、俺ドイツへ行きます」
天城君の台詞に、どよめきがおこる。
それにも気にとめずに、天城君は私の方に歩いてくる。
「わかってだろうけど、そう言うことだから」
「うん」
たぶん、心のどこかでわかってた。
天城君はドイツに行くだろうって。
だって、天城君がお母さんと義妹さんの写真見る時凄く優しい目をしてたから。
一緒に暮らしたいんだろうなって思った。
それに、選抜から逃げるみたいで嫌だっていった時も、もうすでに向こうへ行くビジョンは浮かんでいたんでしょう。
「ずっと、にはお礼が言いたかったんだ……」
「……礼を言われるような事した覚えがないんだけど?」
「初めてあった時も、二回目にあった時も、がああいってくれなかったら、俺はサッカー続けてなかったと思う。
だから……ありがとう」
そう言って天城君は優しく笑った。
「大丈夫だよ。天城君はいつだって自分で答えを出せてたよ。
私は只背中を押しただけ。
私が何も言わなくても、天城君はきっとサッカー続けてたよ」
そう言って私も答えるようにほほえむ。
礼を言われるような事なんて何一つ無いよ。
ちゃんと、自分で選択してきたんだよ。
だから、安心して?


見送りには選抜のメンバーと国分二中のメンバーが来ていた。
先ほどから、『がんばれよ』等と言った台詞が飛び交う。
私は只何も言わずにその光景を見てた。

「天城君、またね!」

寂しくないって言ったら嘘になる。
けど、またすぐに会えるから。
それまでは、ばいばい天城君。



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